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底冷えを誘うような声音が、自分の口をついてでた。突風が、子供と男親のあいだを、裂く。
「妾を“供物”と蔑むとはの。
今はこの身にあらぬ“神力”も、じきにいかようにも遣いこなせるはずじゃ。
その時に後悔しても、知らぬぞえ?
───目障りじゃ、去ね!」
一喝と共に意に反して動く咲耶の右手。立ち去れと、親子を追い払うようなしぐさをして見せる。
咲耶の豹変に震えあがった父親は、子供を抱きかかえ、抜け出てきた茂みへともぐり、逃げて行く。
と、同時に、咲耶の身体から力が抜けた。
地面に倒れこみそうになる刹那、犬貴の腕が咲耶を支えた。
「───申し訳ございません、咲耶様」
本当に申し訳なさが表れた声。
咲耶は、言ってやろうとしていたことの半分も、言えない自分を感じた。
「……だね? いまのは、ちょっと……やりすぎだと思うよ……?」
傍観者のような立場からすると、犬貴は、道に迷った親子を怖がらせただけのようにも見える。
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