904人が本棚に入れています
本棚に追加
だが一方で、“神獣”として崇められていると思っていたハクコ達が、実は権力者の愛玩動物扱いされているのだという認識が、咲耶のなかに加わった。
だからこそ、忠実で律儀そうな犬貴が【怒った】のだろう。
咲耶は深呼吸した。
……情報量が少なすぎて、ずっと自分の立ち位置がつかめずにいた。
だから、判断できないことは、先延ばししてきてしまった。
(でも、それじゃ、いけなかったのかもしれない)
椿に「姫さま」と呼ばれ、犬貴に「咲耶様」と敬われ、いい気になっていた。
まるで『裸の王様』だ。
犬貴は“眷属”である自らのことを、ハクコと咲耶の『盾』であり『剣』であると、初めに言っていた。
そしてハクコは、
「お前が、私の主であるという、証だ」
と言い、咲耶に『白い痕』をつけた。
つまり───【扱うべきは】、咲耶のほうなのだ。
(私に何ができるかは分からないけど)
椿も犬貴も、そして、ハクコも。
こんな自分を頼りにしてくれている。
それが盲目的な根拠のない信頼だとしても、咲耶は彼らの一途な眼差しに、応えたいと思ってしまった。
「【犬貴】」
呼びかけに賢い“眷属”は気づいたのだろう───【仮の主】が主たる己を主張しようとしていることを。
ゆっくりと咲耶から離れ、片ひざをつき、頭を垂れた。
最初のコメントを投稿しよう!