弐:人ならざる半獣《もの》

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「───あるべき良識を、お持ちの方のように、お見受けします。ですが、その……」 犬貴は言いよどんだが、咲耶の視線に根負けしたように続けた。 「少し、風変わりな……と、いいましょうか……。 ああ、いえ、私が風流を、解さないだけかもしれませんが……。 その……、変わったご趣味がおありかと、存じます」 犬貴が言葉をにごしたのが若干、気にはなったが。 犬貴をもってして「良識をもっている」と言わしめるのなら、咲耶の知りたいこと、知っておかなければならないことを、正確に教えてくれるだろう。 客間らしき座敷に通されて間もなく、廊下を歩く衣ずれが聞こえ近づいてきた。 「待たせたわね」 現れたのは、赤地に銀刺しゅうの入った豪奢(ごうしゃ)な打ち掛けに、黒い(うちぎ)を身にまとった、ゆるやかに波打つ赤褐色の髪の、あでやかな───美青年、だった。 気だるげに脇息(きょうそく)にもたれ、咲耶を見つめる瞳は、鮮やかな光を放っている。 「へぇ……年増って聞いてたけど、こうして見ると、ハクと釣り合うくらいの歳に見えるじゃないの。 ───バカ供は、女は若けりゃいいって思ってるんだから、仕様がないったら」
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