弐:人ならざる半獣《もの》

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溜息をつきながら、胸もとに垂れた赤褐色の髪を払う。 ハクコが静の美貌(びぼう)の持ち主なら、セキコは動の美貌の持ち主だろう。しかし───。 「うん。アンタ、なかなか可愛いじゃない。アタシ好み。 ま、ミホに次いで、といったところだけど」 ……この口調は、いかがなものだろうか? この立ち居振舞いも。 決してごついわけではないが、男っぽい体格をしているので、似合わない気がするのだが。 (……犬貴が口ごもったわけが、解ったわ) 「ちょっと!」 ぱちん、と、セキコが手にした扇を鳴らした。 着物同様こちらも、派手な飾り緒がついた美しい檜扇(ひおうぎ)だった。 「一方的に、アタシにばっか、しゃべらせてるんじゃないわよ。 アンタ、何しにここに来たの?」 それまでの軽口をたたいていた調子を一変させ、挑むように咲耶を見るセキコに、思わず咲耶は姿勢を正す。 真意を問われてることに、気づいたからだ。 この場合、 「お招きいただき、ありがとうございます」 などという、型通りのあいさつが求められていないことは明らかだった。
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