弐:人ならざる半獣《もの》

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部屋の隅に控えていた菊が、心得たように立ち上がる。 扇を胸もとにしまい、セキコは咲耶に向かって微笑んだ。 「じゃあ、お望み通り、アタシの知る限りのこと、教えましょ」 セキコは、菊に持ってこさせた筆記具で、さらさらと和紙に筆を走らせ、日本地図のようなものを記した。 ようなもの、としたのは、それが咲耶の知っている『日本の形』と微妙に違っていたからだ。 「この大きな形の世界を“陽ノ元(ひのもと)”といってね。 これを統治するために昔の権力者が、いくつもの国に分けて、それぞれの国に“国司(こくし)”と“国獣(こくじゅう)”を遣わしたの。 で、アタシ達のいるのがココ───“下総ノ国”ってわけ。 “下総ノ国”のいまの“国司”は萩原(はぎはら)尊臣(たかおみ)。 “国獣”は白・黒・赤の三体の虎……つまり、アタシらのことね」 地図に×印を入れ、余白に咲耶が分かるように美麗な楷書(かいしょ)で『陽ノ元』『下総ノ国』『国獣』……と、記していく。
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