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部屋の隅に控えていた菊が、心得たように立ち上がる。
扇を胸もとにしまい、セキコは咲耶に向かって微笑んだ。
「じゃあ、お望み通り、アタシの知る限りのこと、教えましょ」
セキコは、菊に持ってこさせた筆記具で、さらさらと和紙に筆を走らせ、日本地図のようなものを記した。
ようなもの、としたのは、それが咲耶の知っている『日本の形』と微妙に違っていたからだ。
「この大きな形の世界を“陽ノ元”といってね。
これを統治するために昔の権力者が、いくつもの国に分けて、それぞれの国に“国司”と“国獣”を遣わしたの。
で、アタシ達のいるのがココ───“下総ノ国”ってわけ。
“下総ノ国”のいまの“国司”は萩原尊臣。
“国獣”は白・黒・赤の三体の虎……つまり、アタシらのことね」
地図に×印を入れ、余白に咲耶が分かるように美麗な楷書で『陽ノ元』『下総ノ国』『国獣』……と、記していく。
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