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セキコは書いていた和紙をグシャグシャと丸め、ぽいっと放り投げる。
くずかごを手にした菊が、寸分狂わず受け止めた。
咲耶は、ここへ来る途中に出会った男の子の父親を思いだす。
……確かに、セキコの言う通りだろう。
「でも……そういう恩恵って、私のいた世界じゃ『天の恵み』ってことで、人の力の及ばぬところから受けるもの、って、考え方でしたけど。
ここでは……というか、セキ──茜さん達に、何か特別な力とかって、あるんですよね?
犬貴が神力がどうのって、言ってたくらいだから」
「ん~……まぁ、あるといえばあるし、ないといえばないのよねぇ、アタシ達には」
筆を手にしたまま、セキコこと茜は、脇息に頬づえをつく。
「……ないんですか?
変な──じゃない、人語を話す猿を配下にしたり、綺麗な虎に変わったりする力は、あるのに?」
咲耶が「綺麗な虎」と言った瞬間だけ、わずかに眉を上げた茜だが、おどけるように肩をすくめた。
「残念ながら遣えないのよね~、民が期待するような神力は。
咲耶のいう通り、変な猿や犬やきじを配下にすることは可能だけど。
──だから、アンタ達“花嫁”が必要になるってワケ」
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