Red Zone

32/32
2284人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ
「……え?」  顎を持ち上げられ、顔を傾けさせられて、今しがたのよりも甘く乱れたキスを仕掛けられれば、すぐにも心拍数が加速した。 「……ッ」  またもや淫らな妄想に支配されそうになり、慌ててみぞおち辺りを目掛けてもう一発、軽いジャブを繰り出す。 「……ッ! いつまでこんなクッソ狭え所にいねえで……! か、帰んぞ!」 「ああ、分かった」  チュッ、と耳たぶに触れた口づけに、波濤は『懲りない野郎だ』 といったふうに今夜三発目のジャブを見舞い――だがすぐにフッと瞳をゆるめると、あふれる幸福感を噛み締めるような表情で愛しい男を睨み付け、そして微笑った。  通用口の扉を開ければ、真冬の夜の北風がビューと音を立ててやわらかな髪を吹き上げる。 「三発か――まさにノックアウトってやつだな」  ニヒルに口角を上げて龍が嬉しそうに呟いた言葉も、風に乗って凍てつく夜空へと吸い込まれていった。 - FIN - 次エピソード『Double Blizzard』です。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!