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「……え?」
顎を持ち上げられ、顔を傾けさせられて、今しがたのよりも甘く乱れたキスを仕掛けられれば、すぐにも心拍数が加速した。
「……ッ」
またもや淫らな妄想に支配されそうになり、慌ててみぞおち辺りを目掛けてもう一発、軽いジャブを繰り出す。
「……ッ! いつまでこんなクッソ狭え所にいねえで……! か、帰んぞ!」
「ああ、分かった」
チュッ、と耳たぶに触れた口づけに、波濤は『懲りない野郎だ』 といったふうに今夜三発目のジャブを見舞い――だがすぐにフッと瞳をゆるめると、あふれる幸福感を噛み締めるような表情で愛しい男を睨み付け、そして微笑った。
通用口の扉を開ければ、真冬の夜の北風がビューと音を立ててやわらかな髪を吹き上げる。
「三発か――まさにノックアウトってやつだな」
ニヒルに口角を上げて龍が嬉しそうに呟いた言葉も、風に乗って凍てつく夜空へと吸い込まれていった。
- FIN -
次エピソード『Double Blizzard』です。
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