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虚ろ気味の瞳の中に色香が垣間見える。視点は微妙に合っているのかいないのか、だがほんの一瞬、射るような眼力の中に何とも例えようのない狂暴さのようなものを感じて、焦燥感がこみ上げた。
戸惑う間もなくフワッと空気が動いたと思ったら、頬と頬とが触れ合うほどの距離に詰め寄られ、
「俺もお前に興味あるよ――」
低い声を耳元に落とされて、ゾクリと背筋にうずきが走った。
「え……っと、あー、そう? やっぱ、やり方が違う……から?」
このままではマズい方向に行きそうな空気に焦り、わざと明るくそう返した。――が、時すでに遅し――背中から包み込まれるように抱き締められて、波濤は硬直してしまった。
「なあ、やっぱ我慢できねえな――。俺とヤんの、本気で嫌か?」
「や……その、嫌とか嫌じゃねえとか関係ねえし……。と、とにかくふざけんのも大概にしろって……!」
「ふざけてなんかいねえさ。俺はお前を抱きたくてここへ呼んだんだ。逃がすつもりなんかねえし、振られるわけにもいかねえな」
「何……言ってんの、あん……た」
「無理矢理犯っちまうって選択肢もあるが、お前相手にそういう無粋なことはしたくねえ――」
「ちょっ……龍ッ! 酔ってんだろ、てめえっ……!」
「は――堪んね、その言い方。『酔ってんのか』なんて言われっと、ますます引っ込みつかなくなるって思わねえのか?」
低い声音が耳元で得体の知れない何かを炊き点けるようだ。不本意にもカッと首筋が紅潮、気付けば耳たぶを甘噛みされて、波濤は今にも押し倒されそうな雰囲気から逃げるように肩を丸めた。
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