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「うはぁ、たまんね! すっげイイ声で啼きやがる……! おい、早く脱がしちまえって!」
「……やめろッ! よせっつってんだろうが!」
乱暴にされる度に顔を出す欲情を振り払うように、波濤はひたすら叫び続けた。例えそれが凶暴な野獣共を更に煽り立てるだけだとしても、そうする以外に術はないのだ。
こんな酷い状況の中で、ふと脳裏に浮かんだのは自らを育ててくれた黄老人のやさしい笑顔だった。
笑っていなさい。どんなに辛い時でも他人にやさしく、思いやりを持てる男でいなさい。笑顔は皆を幸せに導いてくれるのだよ――
そう言って、頼る身内のない自分にとびきりの愛情を注ぎ育ててくれた老人の笑顔を思い出せば、無情にも涙腺を緩ませた。
じいちゃん――
じい……ちゃん……!
こんな時、あんたならどうするってんだ――
俺は……どうすりゃいいんだ――!
そしてまた一人、脳裏に浮かんだのは唯一人の男の顔だった。
自らを求め、抱き、黄老人とは別の意味での愛を注いでくれた男の顔――
「……っ、う……りゅう……」
龍ーーーーッ!
無意識に、波濤は一人の男の名を絶叫した。この場にいない彼に、この声が届かないと知りつつも、例え幻でもいい、今すぐここに来て欲しいと願う気持ちを一心に込めた魂の叫びだった。
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