Double Blizzard

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 各階毎に廊下を覗きながら捜す内に、とあるフロアの一室から薄明かりが漏れているのを発見して息を殺した。  部屋に近付いてみれば、中には確かに人の気配――龍は間髪入れずに扉を蹴破った。  悶々とした濁る空気が嫌悪感と焦燥感を炙るようだ。  今の今まで、数人がいただろう気配を感じれども、そこには誰もいない。一足遅かったということか――そう思って更に部屋の奥へと足を踏み入れた瞬間、床に投げ出されていた眩しい程のライトが驚愕の光景を映し出して、龍は一瞬絶句させられた。  そこには乱れた服装の波濤が、床に転がるようにして倒れていたからだ。 「波濤ッ――!」  龍は絶叫と共に駆け寄り、愛しい者を抱き起こした。 「波濤! おい、しっかりしろッ! 波濤!」  引き裂かれたようなシャツとジッパーの下ろされたスラックス、腹や胸には引っ掻かれたような傷痕があちこちに浮かび上がっている。何をされたのか、彼のこの格好を目にしただけで想像がついた。  脳裏に浮かぶ腹立たしい光景に、煮えたぎるような怒りを抑えつつも、先ずは彼の容態を把握するのが先決だ。怪我はしていないか、意識はあるのかと身体中を探る。すると、 「……う、龍……じゃねえ……か、お前……」  苦しげに顔を歪めながらではあるが、はっきりとした意識で波濤がそう言った。
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