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「――ッ波濤!」
とてつもなく安堵すると共に、何故もっと早く来てやれなかったかと後悔が自身を苛む――
だが、そんなこちらの意に反して、腕の中の波濤は余裕のある表情でクスリと苦笑してみせると、
「来て……くれたんだ。さんきゅ……な、龍――」
嬉しそうに言った。
「波濤、大丈夫か! 怪我はしてねえか? お前をかっさらった連中はどうした!?」
ここには波濤しか見当たらない。では、犯人たちは既に逃げてしまったということだろうか。
「ん、あいつらはそこ……。隣の部屋でノビてる……」
波濤は苦しげに息を上げながらも、自嘲するように顎先で扉口を指してよこした。その視線の先に目をやれば、確かにコネクティングルームのような次の間らしき部屋の扉が真新しいソファで塞がれている。まだビニールシートを被せたままの新品の家具類だ。それらで扉を塞いで、彼らを閉じ込めたというわけか。
「まさか、お前が……一人でやったのか?」
波濤と扉口とを忙しなく交互に見やりながら龍は訊いた。
扉の向こうは静まり返っていて、無音のようだ。ということは犯人たちは皆、本当にノビているということなのだろうか――
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