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龍が戻ってきたのは、それからほんの数分の後だった。犯人の男らに波濤を拉致した”礼”を自らの手で下すと、同行していた者たちに一先ず彼らを拘束させておいて、飛んで戻ったのだ。大事には至らなかったといえども、とにかく今は何を置いても波濤の傍にいてやりたいと思ったからだ。
如何に波濤が武道に長けていようと、不安や恐怖が皆無だったとは言い切れない。嫌な思いもしたことだろう。龍はとにかく愛しい者の温もりを一瞬でも離したくはなかった。
一方、波濤の方は龍の温もりを傍に感じたのだろう、しばらくは帝斗に支えられながらじっとしていたのだが、急に顔を上げて龍の腕を掴んだ。
「――どうした? どこか痛むのか?」
「ん、だいじょぶ……痛みとかはねえから。それより……龍、頼みが……あるんだ」
「何だ。何でも言え」
「ん、うん……さんきゅ」
波濤は龍へとしがみ付くようにグイと引き寄せると、その耳元に唇を寄せて言った。
「……二人に……なりたい。今すぐ……お前と二人だけ……に」
波濤の吐息は荒く、何かに耐えるように表情を歪めている。
見たところ怪我を負っているふうでもないので、もしかしたら内傷を食らっているのかも知れない。先程から腹を守るように前屈みでいるのも気に掛かる。
「ごめ……龍、さっきあいつらに盛られた薬が……やべえ。俺、もう……」
「薬だと――ッ!?」
「ん、エロ……いやつ。あれのせいで……俺、もう我慢……限界」
頬を赤らめながら懸命にそう訴える様子に、龍はハッと腕の中の彼を見やった。
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