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ポツリと独り言が漏れて、龍という男の素性を不思議に思う。そういえば彼は自らを育ててくれた黄老人のことも知っていると言っていた。昨夜はあんな状態だったのですっかり忘れていたが、考えれば考えるほど謎が増えるような気がして、波濤は一人首を傾げた。
と、遠くに部屋の扉が開かれる音がして、『ご苦労だった』と、誰かに話し掛ける龍の声が聞こえてきた。
まだ休んでいると思ったのだろうか、なるべく音を立てないような仕草で部屋の扉が開けられたのを感じて、波濤は出迎えるように駆け寄った。
「龍――!」
「波濤! 起きていたのか。身体の具合はどうだ?」
「ん、お陰様ですっかりいいよ。さっきすっげえ豪華な風呂も使わしてもらったし」
「そうか」
龍はフッと瞳を緩めると、穏やかな笑みを浮かべながら手にしていたスーツの上着を脱いで、ソファへと置いた。
「メモ、見たよ。どっか出掛けてたのか?」
「ああ、ちょっとな。お前はぐっすり眠ってたから起こさねえでおこうと思ってな。黙って行っちまって済まない」
「ンなこと……俺ン方こそ至れり尽くせりで申し訳ねえなって……」
そう言い掛けて、波濤はハタと言葉をとめた。先程から上着を脱いだり時計やら小物類を置いたりするごくごく何気ない龍の仕草を見ているだけで、訳もなく落ち着かないのだ。
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