Double Blizzard

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 あの時もその台詞にドキリとさせられたのを、昨日のことのように鮮明に覚えている。冷たくて、凍えるようで、自分にはこれ以上ない似合いの名だと思っていたあの頃――  育ての親である黄老人を亡くし、誰一人として頼るところのない異国の地で、腹違いの兄に多額の金を無心されていた。冷たく閉ざされた過酷な状況の中にあったとしても、忘れないでいようと思った言葉が蘇る。  笑っていなさい、冰。  笑顔は皆を幸せにしてくれる。  いつでも愉快に楽しく! 笑う門には福来たる――だぞ。  孤児となった自らを引き取り、我が子のように愛情を注いでくれた黄老人が口癖のようにしていた言葉だ。そうだ、どんなに辛くともどんなに過酷でも、それが永久凍土のような道であったとしても、これだけは忘れないでいよう。黄老人の残してくれたこの言葉を心の糧として生きていこう、そう思ってきた。そうすることで、いつの日か自身の中の凍てつく”冰”が溶ける日がくることを夢見てきた。  ボロボロとあふれ出る涙を、もはやとめられないままに波濤は言った。 「龍、お前と初めて出会った時さ……お前の本名を知って、俺すげえ親近感が湧いたんだ」  氷川白夜(ひかわ びゃくや)――果てしなく暮れることのない夜を流れる冷たい氷の川。
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