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さっきから幾度も腰元に当たってくる硬い雄の感覚を罵倒するくらいしか、抵抗の術がない。
「当たり前だろうが。何度言えば分かるんだ。俺はお前を抱く為にここへ呼んだん……だって!」
わずかに力んだ声音と共にスラックスごと下着も一気に引き摺り下ろされて、それらが膝に絡み付く。これではまるで強姦に他ならない。
「な……にが……無粋なことはしたくねえ――だよッ! てめえのやってンことは……犯罪だぞ!」
「は、そうかもな。否定はしねえさ」
「…………ッの……獣野郎が――!」
「――獣ね。これ以上ない褒め言葉だ。だが、誰にでもってわけじゃねえさ。お前にだけだ――冰」
今の今までの強引さと荒々しさとは対極の、穏やかで優しい声が切なげに耳元を侵す。その瞬間、わけもなく泣きたいような気持ちに駆られた。
そうさ、好きでやってるわけじゃない――
客の男と寝ることが自身の業績を上げる為だけの枕営業であるならば、誰にどんな罵倒をされようが構わない。気にもとめない。
だが違う。誰にも言えない、言いたくもない苦悩がそこに隠されていることをただただ独りで抱え込んできたというのに――この男はいとも簡単にそれを剥ぎ取ろうとしている。
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