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その無口で愛想のない風貌からしても、ひどく似合いの名だと思った。もしかしたら彼もまた、自らと同じような過酷な運命を抱えている男なのかも知れない――と、そんな想像をするだけで不思議な安堵感を覚えた。彼のような男が近くに存在するというだけで、心に拠り所ができるような気がしていたのだ。
止め処ない涙をしゃくり上げるようにしてそんなことを言った波濤を、龍はたまらずに引き寄せ腕の中へと抱き包んだ。
「じゃあ、俺らは最初から惹かれ合ってたってことだな」
「ん、ああ……うん」
「例えば俺が氷の川だったとしても、俺はお前を溶かす自信があるぜ?」
「はは……マジかよ」
「氷をもって冰を制す――ってな?」
「なんだよそれ、日本語ヘンじゃねえ?」
「ま、仕方ねえな。俺は日本語よりは広東語の方がしっくりくるしな」
クスクスと笑い合う。今、この瞬間が言い表しようのないくらい幸せだと思う。
温かく力強い腕に包まれながら、波濤は唯一無二の男の背に腕を回して抱き返した。すっぽりと熱い胸に頬をうずめながら、静かに瞳を閉じる。
じいちゃん、俺、幸せだよ。
じいちゃんが教えてくれた言葉、本当だったよ。
どんなに辛くても笑ってがんばってきたから、俺はこの人に巡り会えた。
こうして、今、心から笑うことができてるよ――
心から幸せだと思えるよ――!
じいちゃん、見てくれてるか?
天国にいる黄老人に語り掛ける波濤の頬に、またひとすじ涙がこぼれて伝った。
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