Daydream Candy

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 オーナーは三十代の半ばで面倒見の良い兄貴気質、スカウトから入店後も細やかにスタッフの教育に携わり、客の扱いは無論のこと、スタッフ同士の先輩後輩の礼儀までをも根気よく教え丁寧に面倒を見る。いわば地道な努力を欠かさず積み重ねてきた結果、年々経営も拡大して、現在は此処(ここ)新宿店を拠点に都内に三店舗を持つようになった規模だ。  その斜向かいに、やはり昨今名を上げてきているライバル店が開業するらしいという噂が広まったのが、つい先週末のことだった。  何でも元ナンバーワン上がりの若手経営者が半年ほど前から始めた店で、それこそ”うなぎのぼり”の急成長店舗だそうだ。現在は歓楽街の割合外れの地区で営業中だが、資金の目処が立ったのか、街区一等地に近いこの辺りに引っ越してくるというわけらしい。  いかに新参店とはいえ、そんな強力なライバルが出店となれば、少なからず焦らないではない。しかも立地が斜向かいというのはまるで挑発に他ならない。  有ること無いこと噂が飛んで、焦れるスタッフらの統率を含め、目下の対策として若きオーナーが采配したのは、都内にある他の三店舗から指名率の高いホストを一時的にでも新宿店に派遣(まわ)し、改めて店のイメージアップを図ろうということだった。  各店舗から助っ人としてホストたちが選ばれ、中でも六本木店からはナンバーワンを張っている男が入店してくるとあって、新宿本店では別の意味でちょっとした話題に浮き足立っていたりもした。 ◇    ◇    ◇  それがこの男だ。
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