Daydream Candy

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 ほんのわずかにでも気をゆるめれば、決して知られたくはない自らの内面で渦巻く苦渋が、ガタガタと音を立てて崩れ落ちてしまいそうだ。誰かに泣いて縋り付きたくなってしまう。弱い自分をさらけ出して、思い切り受け止めてくれるような(かいな)を探したくなってしまう。  自身の抱える苦くてどす黒い感情――そんな思いを見せたくないが為に誰の前でも明るく振る舞い、懸命に取り繕ってきたというのに。何故会って間もないこの男は、こうもズケズケと踏み込んでくるのだろう。まるですべてを見透かされているようだ。  今まで積み重ねてきたものが一瞬で突き崩され、丸裸にされてしまうようで、波濤は恐怖ともつかない言いようのない感覚に足のすくむような思いでいた。  そして、そんな恐怖心から逃れたいという本能からか、欲情の渦に手を伸ばしたくて堪らなくなる。  目の前の淫猥な世界にどっぷりと堕ちてしまったならば、すべての苦しみから解放されるだろうか。  ほんの一瞬でもいい、何もかもを忘れて、ただこの欲にまみれてしまいたい――こみ上げてくる涙を掻き消すかのように、波濤は龍の差し出す欲情を受け入れた。 ◇    ◇    ◇  その後、脱ぎ捨てた服をそのままに、ベッドへと移動して熱情を絡め合った。  初めて触れる龍の素肌は逞しく、整った筋肉質の身体が艶かしく、いつもの隙のないスーツ姿とのギャップが例えようもなく甘美で、心を鷲掴みにされそうだ。
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