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強引で容赦のない言動とは裏腹に、愛撫はやさしく且つ淫らで、身も心も包み込んでくれるような安堵感をもたらしてくる。
このまま、どうにもならないくらいグズグズに甘やかされてみたい――そんな欲求が沸々と湧き上がるようだった。
涙がこぼれそうなほどの包容力を伴った心地のいい腕の中に抱かれながら、波濤は”この男を贔屓にして来店する女性客らの心理”などを漠然と思い浮かべていた。
――あんな奴がどうして六本木でナンバーワンを張っていられたのか皆目不思議。
今ならば、その理由が分かるような気がしていた。
身体はどうしようもないくらい淫らに揺らされながら、心までもがこの男の持つ、得も言われぬ魅力に乱されつつある。
知らずの内に身も心も虜にされてしまいそうで、目を背けたくなる。この男に嵌ってしまう自分を少しでも想像すれば、怖くて腰の引ける思いがした。
店に来る彼女らも少なからずこんな思いでいるのだろうか。
この男の得体の知れない魅力にとり憑かれたが最後、苦しい嫉妬や孤独に苛まれながら、それでもひと目その姿に触れたくてフラフラと足が向いてしまうのだろうか。
そんな不思議な魅力がこの男にはあるのだ。
だが考えたくはない。間違ってもこの男を好きになったりすることなどない。そんなことが――あってはならない。
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