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先程から『抱く抱かない、料金はいくらだ』だのと突飛なことを言ってのけている男。本名を氷川白夜、源氏名を【龍】といった。
一八六センチの長身に濡羽色のストレートを一糸乱さずバックにホールドして梳かし付けた髪。纏うスーツはすべて高級な繻子素材、一目で分かる質の良さそうな靴はオーダーメイドだろうか。大概のホストならば競って身につけたがりそうな派手な宝飾品には目もくれず、ノーアクセサリーできっちりとタイを着用したその出で立ちからは、隙のひとつも感じられない。無口であまり笑顔を見せない上に、進んで客の機嫌を取ろうともしない。軽快さやノリの良さも全くないこの男からは、おおよそホストとしての雰囲気など皆無に感じれらた。
新宿店のナンバーワンで活躍していた波濤にとっては、まるで自身と正反対のタイプのこの男が、ある種興味深い存在であったのは確かだ。そんな男だから、彼が入店してきた時分はちょっとした冷戦的空気が、店の中に流れたこともあった。
「……ったく、あの龍さんって、マジ愛想ねえっていうか……ポーカーフェイスっての? 冗談全く通じねえし、何言っても無表情で反応ねえし。ヘルプ入っても緊張しちゃって疲れますよ……」
「そうそう、俺もこないだあの人と一緒ンなって、すっげえ場を盛下げちゃったっつーか、波濤さんとは正反対っすよ!」
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