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「ふぅ……。波濤がこんな難儀なものを背負っていただなんてね。何とかしてあげたいのは山々だが――」
帝斗はシガーを灰皿に揉み消すと、またひとたび重い溜め息をついた。
「財閥のトップ――、妾――、妾腹の子――、そして肉親からの恐喝と金の無心か。僕が冰にしてやれることがあるとしても、おそらくは彼の心の痛みまでを包み込んでやることはできないだろうかね。僕では何かと力不足か――」
だが、このまま見て見ぬふりを続けるわけにもいかない。そもそも帝斗が今回、興信所に頼んでまで波濤のことを調べたのには、彼の様子がおかしいことをひどく危惧していたからである。
表面は常に明るく、就業態度も真面目で、後輩にも好かれるとてもいい人柄の波濤である。だが、彼が明るさを装う裏で、何やら苦悩を抱えているように思えてならなかったのだ。
波濤の心の揺れをいち早く読み取った帝斗は、一先ず彼の生い立ちから、何故この店のホストになったのかなどについて、密かに調べてみることにしたのだった。
「――この件、ヤツに賭けてみるか。僕ではできないことでも、あいつならばきっと……」
手元の携帯電話のアドレス帳を見つめながら、帝斗はそう独りごちる。画面に映し出されたのは一人の男の名。帝斗にとって幼馴染みであり、人生の中でも数少ない”本物の親友”と呼べる男の名だった。
-FIN-
次エピソード『Halloween Night』です。
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