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この男が自身の勤めるホストクラブの支店から移籍して来たのは、ほんのひと月ほど前のことだ。おおよそホストらしからぬ仏頂面の上に、客に対する態度も無愛想のくせにして、前の店では指名率ナンバーワンだったというからひどく驚かされたものだ。
その態度や商法は現在の店に来てからも変わらずに、ヘルプに付いた後輩ホストらを緊張させたりと、とにかく良くも悪くも皆の関心を引いてやまないこの男は、源氏名を龍、本名を氷川白夜といった。
それまでは押しも押されもしないナンバーワンだった波濤にとっても、彼が来たことでその座を争うことになった。いわば今現在一番のライバルでもある。
それだけの関係ならば幾分イケすかない感はあるにしろ、さして問題はないのだが、波濤にはどうにもこの男が扱いづらくてたまらない理由があった。
それは半月ほど前のこと、初めてこの男の自宅マンションに招かれた際のことだ。
『ナンバーワン同士、もう少し懇意になっておいた方がいいんじゃないか』などと尤もらしい台詞で誘われて、ノコノコと付いて行ったのを後悔している――と言い切るには語弊があるだろうか。だが多少なりとも後悔先に立たずな気分にさせられたのも事実だ。
いきなり身体の関係を迫られた上に、『お前が好きだ』と告白めいたことまで言われて、面食らったのを忘れたわけじゃない。
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