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クスッと鼻先で笑う。その口元は接客時に垣間見たのと同じように、薄い冷笑を伴っている。不本意にもカッと頬の熱が上がるような気がして、波濤は顔を背けた。
それを合図のように龍は波濤の真正面へと歩み寄ると、あろうことかクイとその顎先を掴んで持ち上げたのだから驚きもひとしおだ。
「ちょ……ッ、戯けんのもたいがいに……!」
「知ってるぜ。お前、店でも稼ぎ頭で後輩の面倒見もいい優等生みてえだけど。裏じゃ随分ご大層な秘密があるみてえじゃねえか。お前の客って女は勿論、男も案外多いのな? で、何? そいつらとアフターまで付き合うんだろ?」
意味ありげな瞳が薄く弧を描いている。侮蔑とも挑発とも取れないような視線で見流されて、頬は更に熱を持った。
「例えば昨夜の客――青年実業家ふうの結構な男前だったよな? まだ閉店前だってのに早々に引き上げて、こっそり抜け出して? 何処へ行ったんだ? 野郎二人で仲良く”飯”ってわけでもねえだろ?」
「……ンなことっ、どうだっていいだろが……ッ! 他人のアフター事情なんか知ってどーすんだって……!」
挑発に乗るつもりなど更々なかったが、動揺を隠す為か、波濤は咄嗟にそう怒鳴りあげてしまった。そんな態度を横目に、相反して龍の方は今までの意味深な冷笑をピタリと止めると、酷く落ち着いた調子で、
「――興味があるんだ」
低い声でそう言うなり、手を添えていた顎先を掴んでクイと持ち上げた。
「ちょ……ッ!」
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