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「やっぱりバカにしてんじゃねえか」
氷川は少々スネたように唇を尖らせると、恨めしげに帝斗を見やった。
夏の朝が明けるのは早い――
ついさっきまでは深い蒼を讃えていた空の色は、ほんの数分で白へと変わる。その白い空に浮かぶ雲の峰の際が黄金色に輝き出す瞬間は間もなくだ。大都会にそびえる高楼の屋上から眺めるこの景色は、まさに絶景であった。
「ご覧よ、もうすぐ陽が昇る。何て綺麗なんだろうね」
「ああ、そうだな」
眩しそうに瞳を細める帝斗を横目に、氷川も東の空へと視線をやった。
「ねえ白夜――」
「――何だ」
「清々しくて自由で素晴らしい夜明けだろう?」
「――ああ」
「もしも羽が生えていたら、飛んでみたくなるような空だよね。僕にはね、どうしてもこの空を見せてあげたい奴がいるんだ」
やわらかな笑顔とは裏腹に、まるで祈るようにそう言った帝斗の言葉がさざ波のように氷川の心の琴線に触れては、波紋となって揺れ広がった。まるでこの先に待っている特別な何かを予感させるかのように胸を逸らせ吹き抜ける――。
真夏を告げる黄金色の光が美しい朝のことだった。
-FIN-
次エピソード『Red Zone』です。
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