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Daydream Candy
「いくらだ――?」
「――は?」
「だから、お前。いくらでヤらせんだ。一発五万? それとも十万ってか?」
まるで感情の起伏が読み取れない、飄々とした無表情でそんなことを訊く。突然の奇行に【波濤】は驚き、怒りを通り越して唖然としてしまった。
この男が自身の勤めるホストクラブに入店してきたのは、ほんの一ヶ月前のことだ。初秋を告げる金木犀の香りが心地よく鼻につく、そんな季節だった。
◇ ◇ ◇
「おい、知ってっかッ!? ウチの斜向かいに新しい店が来るって話っ!」
「聞いた。十月オープンだってじゃん! 来週からは改装工事も始まるって。さっき現場確認に来てたぜ」
「マジかよー!」
普段はクールを装う華麗なホストたちが顔を揃えてそんな話で持ちきりになったのは猛暑もたけなわの七月中旬、此処は新宿歓楽街にあるホストクラブだ。店名を【club-xuanwu《クラブシェンウー》】という。
店の規模は業界内では中堅といったところだが、ルックスも性質も極上のスタッフが揃っているという口込みで、ここ最近はライバル店を軒並み抜いて業績を上げつつある――うなぎのぼりのように見えて、その裏では堅実な努力の結果、名を上げてきた店だ。
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