Allure

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Allure

 後部座席のシートに深く寄り掛かりながら、瞳を伏せている丹精な鼻筋に街の灯りが映り込んでは飛んでいく。  黙っている彼はその整った顔立ちが強調されて、無意識にも目をとめて惹きつけられる。動きのない表情がまるで精巧に作られた人形のようでもあり、同じ男から見ても実際羨ましいほどの男前だ。  バックに撫で付けられた黒髪が少し乱れて額に掛かり、車の揺れに合わせて振られる首筋の動きから、浅い眠りが苦しげにも思えて心配になる。時折長い脚を左右に振り、窮屈そうに身をよじるのを見れば尚更だ。長身の彼が眠るには、タクシーの車内が通常よりも小さく感じられた。 「おい、大丈夫か?」  隣から身を乗り出して、そんなふうに声を掛けた。すると、閉じていた瞳をゆっくりと開き、口元に薄い笑みを浮かべてうれしそうに視線を細めた。 「何だ、心配してくれんのか?」  クスッと余裕の微笑みを見せたと同時に、頬と頬とがくっ付くほどの位置にまで近寄られて、波濤はびっくりしたように舌打ちをしてみせた。 「……っンだよ! 充分ゲンキじゃねえかよッ!」
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