大安吉日

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「田中部長、ありがとうございます。では、戻りますね」 「あぁ」 片手をあげ、歩き出す田中の背中を見送り奈々子は踵を返した。 田中に元気を分けてもらい、背筋を伸ばす。 お客様として、武に最高の結婚式を挙げてもらう為に。 ドレスルームに戻る為に、廊下の角を曲がると、そこに立っていた人とぶつかりよろめいた。 「あっ!すみません。急いでいたので……」 頭を下げて謝ると、聞き覚えのある声が降ってきた。 「……奈々子」 「武? どうしてこんな所に?」 武は、問いかけに答えず、奈々子の腕を強く掴んだ。 「いっ、痛い。何? 離して……」 「アイツが居たから、俺のプロポーズずっと保留にしてたのか?」 「え?」 怒った様子の武に壁へと追いやられ、逃げ場をなくし奈々子の背中は壁へと押し付けられていた。 「お前……アイツと俺、二股かけてたのかよ?」 見た事のない武の顔が迫り、奈々子は武に対して初めて恐怖を覚えた。 そして、それと同時に怒りもこみ上げてきた。 『アイツが居たから、俺のプロポーズを保留にしていたのか?』 その言葉が、武のプロポーズに答える為に頑張ってきた自分を否定された気がしたから。 奈々子が頑張っていたのを、一番近くで見てきたのは武のはず。 自分がした事を、棚に上げて…… 怒りで言い返そうとした時、その血圧に体がついていかず、目の前は暗くなり、奈々子は意識を手放していた。
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