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その優しさが、奈々子のさっき までの感情をゆるゆると解いていく。
なぜ、武は誕生日に現れて指輪を渡したのか?
いくら奈々子が考えても答えなんて見つからない。
ただ田中の温もりに、頬に一筋の光が流れた。
「すみません……」
「泣きたいなら泣けばいい」
「どうして……なんですかね。武はどうして私を困らせるんですかね……」
奈々子は、力なく下に下げていた手をぎゅっと握りしめた。
それに気づいた田中が、その手を優しく包みこむ。
「きっと……彼も松下を困らせたい訳じゃないと思う。ただ……彼は、お前と別れたあの日から動けてないんじゃないかな?」
「……」
「お前は、あの日の辛さを乗り越えて前を向き始めた。彼は、その辛さに足を止めたままなんだよ……きっと」
「……別れ話は、武からいったのに……ですか?」
「彼じゃないから、本心は分からないけど」
と田中は困ったように笑い奈々子の涙を拭う。
「どんな理由にしても、一度繋がった縁を切る事が平気な人はそうそういない……原因は自分が作ったとしても……周りから見たら前に進んでいるように見えても、心は動けない……。
だから、彼も足掻いてるんじゃないかな?次に進むために」
「……私は、武と次に進む気はありませんよ」
「だろうな。それに……俺もお前と彼を、次に進ます気はないよ」
え?と聞き返す奈々子の髪を乱すように、頭を撫で田中は誤魔化すように笑った。
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