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行きつけの焼き鳥屋で、ジョッキのビールが2杯空になった頃田中は気になっていた事をもう一度口にした。
「で、何があったんだ?」
7歳年下の松下は、良く気が付きお客さんの評価も良い。松下をチーフに押したのも田中だった。どんな激務も、笑顔で対応し社内で疲れた顔やため息をしているのを見たことがなかった。
一度以外は・・・。その一度は、1年半前。
松下が、薬指につけていた指輪をはずして目を腫らし出社した日、深いため息をつく松下に田中は声をかけれなかった。
彼氏と別れた・・・・・
その事が容易に想像ができたから、傷口を広げることはしたくなかったのだ。でも田中はその事を後悔していた。
別れるきっかけが、自分が推したチーフかもしれないと頭を過ったからだ。
乾いた笑いをした後、松下はビールの浮かぶ泡をみながらポツリと呟いた。
「・・・・私が勤めてるって知ってたのに・・・元彼が、今日彼女と来店してきたんです」
「それは、酷いな・・・・担当を替えるか?」
松下は、軽く首をふりジョッキを握りしめた。
「彼女さんから、私を指名したいっとリクエストがあったので」
「なんだそれ。元彼は、何も言わなかったのか?」
残り数センチのビールを、松下は一気に喉へと流し込みカウンターへ2杯おかわりを頼む。
「・・・見せびらかしたかったんですかね?可愛い彼女を」
ほんのりと染まった頬が、赤みを増す。薄らと涙を溜まった瞳をみない様に、松下の頭を軽く叩いた。
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