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「それ、多分彼女はお前が、彼氏の元彼女って知って来てるな・・・」
「……私も、そんな気がしました」
運命だと言っても、まったく知らない状態で県内に何社もある式場で、彼女が将来の旦那様の元カノが働く式場を指名し、ましてやその彼女を指名する可能性なんてゼロに等しいだろう。
田中と松下の前におかわりのビールが届き、二人でもう一度軽くジョッキを合わせ一口口にした。
「お前の元彼を悪く言って悪いが……お前が勤めてるって知ってるなら、絶対うちは避けるべきだったと思うぞ」
「……ですよね」
小さな店内だが、酔っぱらった客の声で松下の小さなため息は雑音へと消えていく。
「でも、男は過去に生きるからな。一度付き合った女は、ずっと自分の事を心のどこかで思ってもらいたいって思うもんだ。それが、好きだった奴ほどそう思う。
だから、彼女がうちにしたいと言っても止めれなかったのは、お前に忘れてもらいたくないっていう心の現れかもしれないぞ」
「勝手……ですね。別れてくれっていったの……あっちだったのに……」
一筋の光が、松下の頬を流れる。それを人差し指で拭いながら「泣くなよ」と田中が告げると。
「泣いていません。ちょっと、煙が染みただけです」
「ぶっ、そうしておいてやるよ」
ハンカチで目元を抑える松下の頭をもう一度撫で、田中はカウンターの店主に追加注文をした。
「手羽先と、ヅリと エノキベーコン2本づつ」
「部長それ、全部私の好物です」
思わず笑顔になる松下に「知ってる」と答え田中はビールを流し込んだ。
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