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武達の式は、11月の大安の日曜日と決まった。二人の付き合った記念日だと彼女は、奈々子に嬉しそうに告げる。
あの再会から、2度目の来店はドレスの試着だった。
「色々決めなきゃいけないことはあると思うけど、ドレス決めたくて」
「そうですね。やはり、皆さんドレスを先に決めたがりますよ」
カタログに、沢山の付箋紙。このカタログを二人で眺め、ああでもない、こうでもないとやり取りが目に浮かぶ様だった。
「挙式は白だけど、披露宴では可愛い色のドレスも着てみたいんですよね。ほら、武がいいっていってたピンクのドレスあるかな?」
甘えるように、武の服を引っ張りその流れで腕を組む。
「おい。知美」
その手を離すように促すが、彼女はそれを聞きいれる風はなかった。
奈々子は、カタログのドレスに視線を落とし笑顔を繕った。
「仲が宜しいですね。そのドレスならこちらにございますよ」
「ほら、ここに来るのは結婚する人ばっかりなんだから、少しぐらいイチャイチャしてたって誰も文句なんて言わないよ」
ドレスに案内する奈々子の後ろで、少し声を潜めた会話が聞こえた。
「こちらになります」
「やっぱり、可愛い! 武、似合う?」
ドレスを自分の前にあてがい、ドレスの裾を片手で摘んでみせた。
「……あぁ、似合うよ」
顔は二人に向けつつ、奈々子は視線だけを逸らした。
どうして、こんなことをしているのだろう?
二人を見ていると、大好きだった仕事に嫌悪感が募り、そんな自分にも嫌悪感を抱くという負の連鎖。それに加えて、彼女がつける甘ったるい香水がやけに鼻につき気分が悪い。
奈々子は、ここ数日まともに食事をとっていないことを思い出し、床が揺れる感覚に襲われた。
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