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奈々子は、武達の結婚も仕事として割り切り順調に準備を進めていた。
心がざわつく時もあったが、その時は何かと田中がフォローしてくれていた。
昼のランチのお陰で、食事もとれ体調もすっかりよくなっていた。
「お先に失礼します」
すっかり暗くなっていたが、今日少し早く帰れる事が奈々子は少し嬉しかった。
今日は、奈々子の誕生日だから。
と、いっても特に予定がある訳ではない。
平日の夜、友達を呼び出すにも気が引けた。
一人事務所で仕事をしている、田中に奈々子は声を掛けた。
「お疲れ様です、田中部長」
「お。今日は少し早く帰れるんだな」
田中は、パソコンを打つ手を止めて奈々子を見上げた。
「はい、おかげ様で。田中部長も仕事終わるんでしたら、飲みに行きますか?」
「魅力的な誘いだが、俺は生憎仕事がまだ残ってるんだよ」
「残念です。誕生日なんでご馳走して貰おうと思ってたのに……」
「お前誕生日なのか……でも、これ今日中に終わらせとかないといけないから」
「あ、私、何か手伝いましょうか?」
「誕生日の奴に、残業を強要さすほど鬼じゃないよ、俺は」
田中は、笑いながら机に置いていた缶コーヒーを奈々子に手渡す。
「今度ご馳走してやるよ。だから、今日 は一人寂しくコンビニのケーキでも食って早く寝ろ」
「あはは、期待しておきますね。じゃ、お疲れ様です」
奈々子はもらった缶コーヒーを軽く上げて「いただきます」と田中に伝えると会社をあとにした。
奈々子は缶コーヒーを眺め、笑みが漏れた。
さりげない田中の優しさに、心が温かくなる。
貰った缶コーヒーを、奈々子は大事そうにカバンへと入れて、駐車場に向かう。
そこで、見覚えがある車が止まっていた。
何度も、その助手席に乗った車に奈々子は胸を詰まらせる。
立ち尽くす奈々子の姿に気づいたのか、運転席から男性が降りてきた。
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