1410人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
唇に触れる温もり。
久しぶりに、唇に感じる人の温もりは酷く熱く感じた。
奈々子は一瞬、世界が止まったように感じていた。
誕生日
月明かり
結婚指輪
キス
単語だけとればとてもロマンティックで、誰もが羨むワンシーンだろう。
しかし、我に返った奈々子は武の胸を強く叩く。
それでも、武は一向に唇を離す気配はなく、それどころか息苦しくなり微かに開けた唇から舌を滑り込ませた。
その侵入を拒む様に奈々子は、歯列をなぞる武の舌に歯をたてた。
「っ!!」
痛みで唇を離した武の腕を振りほどき、ようやく解放された奈々子は地面を見つめていた。
「……ふざけないでよ!!」
待たせた罪悪感はある。
でも、奈々子もそれに答えるために頑張っていた。その間に、”好きな人ができた”と自分を置いていったのは武の方なのだ。
あの時の奈々子の気持ちは、武に分かるはずがない。
どんな想いで、あの気持ちを整理したか。
それを、今更婚約者もいる身で”やりなおせないか”とは……
「馬鹿じゃないの!!」
昔、渡すはずだった指輪と、キスを押し付けられて、奈々子が喜ぶはずもない。
奈々子は、武の本心か疑った。
本心ではないにしても、勢いにしても、武が『私も、やりなおしたい』という返事をすると思っていると思うと、悲しみよりも怒りが湧き上がり、涙を溜めた瞳で奈々子は武を睨みつけた。
最初のコメントを投稿しよう!