突然の再会

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** 「いらっしゃいまっ……」 深々と頭を下げ、顔をあげると見知った顔があった。 涙に明け暮れたあの日から1年半。 ガムシャラに仕事を続けた。仕事しかなかったから。 そんな日々の中でも、時折武と過ごした日々を思い出す。 いつかどこかで、バッタリあったら笑顔でいれるようにと誓ってはいたが、こんな形で再会することになるとは思っていなかった。 フワフワとした小柄な女性と手を繋ぎ、ばつが悪そうに来店したのは、武だった。 「あの、結婚式の予約にきたんです」 満面の笑みで、武の手を引く女性に笑顔を向けた。 「おめでとうございます。では、お席にご案内しますのでこちらへ」 「行こう、武」 弾む様な声が、武の名前を呼ぶ。 接客業は、何より笑顔が一番大事だと教えられた。 いい客ばかりではない、難癖をつけるお客や気の合わないお客だっている。この場所でずっと笑顔で接客し、お客さんにも仲間にも信頼を得てきたけど……今回ばかりは、最後まで笑顔で接客する自信が奈々子にはなかった。 別れて1年半。 未練があるかと聞かれれば、未練はない。 でも、心の中にある思い出はまだ色褪せてはいない。 武の担当は、別の人にお願いしよう。席に案内しながらそんな事を思っていたら、背後から声をかけられた。
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