突然の再会

3/6
前へ
/66ページ
次へ
「私たち、松下さんに担当になってもらいたいんですけど」 「おい! 知美」 「大丈夫ですよね?」 奈々子はゆっくり振り返ると、困惑している武と真っ直ぐ瞳で奈々子を捉える彼女の姿。 「ご指名ありがとうございます。とりあえずスケジュールを聞かせていただいての返答になりますが、お式当日が他のお客様と重なっていなかったら、是非担当させてください」 沢山の人の幸せに立ち会いたいと夢見てこの仕事についた、いつか自分の式もなんて夢をみたこともあったが、まさか元彼の結婚式を担当することになるとは、奈々子も思ってはいなかった。 「よかったね、武。 友達が、松下さんに担当してもらって凄く素敵な式になったって言ってたから、 絶対お願いしたかったんだ。」 ズンズンと心に、黒いものが溜まっていく。それとは裏腹に、奈々子は自信がなかった笑顔を作れていた。 「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」 席に通し、奈々子は二人に名刺を差し出した。 「はじめまして。チーフマネージャの松下です」 完璧な笑顔と”はじめまして”の挨拶は、奈々子の防壁だった。 いま目の前に座っているのは、初めてのお客様で赤の他人。そう自分に強く言い聞かせていた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1431人が本棚に入れています
本棚に追加