ドラとチョビヒゲ

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 田んぼと森に囲まれた場所で、コンビニまで車で15分。  家に染みついた生活の年期は半世紀。  椅子に座れば、その瞬間に床板がギィと軋む。  ここはそういう場所だ。  料理をする母の傍らで、置いてあったせんべいをつまんだ。 「アンタ、帰って来るの何年ぶりになんの?」  トントンと包丁を叩きなら母が言う。 「忘れた。3年まではいってないと思うけど、、、」  僕が言うと、なぜか母は笑っていた。 「そう言えばチョビヒゲに逃げられた。アイツ、もう僕のこと忘れちゃったみたいだ」 「そうなの。でも、すぐ思い出すべさ」 「いやいや、相手は猫だぜ。もう思い出さんよ」 「そう?でも前はあんなにアンタに懐いとったよね。冬になっと、アンタの布団にこっそり潜り込んだりしとったべ」 「ああ。そんなこともあったけど、でも猫は餌がもらえる時だけ近づくとか言うし、アレも寒かったから来ただけだ。懐いてるのとは違ったんじゃないか」 「ふぅん。まぁ、どのみちすぐ思い出すべさ」 「いやいや、人の話聞いてた?」  僕は2枚目のせんべいに手を伸ばす。  味噌汁だろうか。かつお出汁のいい匂いが漂っていた。 「そう言えばドラの方はまだ見てないな」  何となしに僕が言う。 「ああ、去年死んだんだべ」  何となしに母が答えていた。     
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