ドラとチョビヒゲ

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ドラとチョビヒゲ

久しぶりに帰った実家は澄みきった空気に満ちていた。 それは田舎町の空気が実際に澄んでいたのかもしれないし、久しぶりに取れた纏まった休みで、仕事からの解放感に心がやられていたからかもしれない。 「ただいま」と、玄関をくぐる。 チョビヒゲが寝そべっていた。 チョビヒゲというのは実家の飼い猫だ。真っ白な毛並みにポツポツと黒の斑点がある。その一つが見事に鼻と口の間に付いているからチョビヒゲ。 「久しぶり。ただいま」と、僕はチョビヒゲに手を伸ばす。  できるだけ優しく伸ばしたつもりだったが、チョビヒゲは慌てて立ち上がると、フーと全身の毛を逆立てて、そのまま家の奥の方へ走り去ってしまった。  ずいぶんと帰っていないと、こういうことになるのか。僕は嘆息した。  猫は気まま。知ってはいたが、ちょっと寂しい。 「あら、おかえり」と、チョビヒゲと入れ替わりで奥から母が出てきた。 「ああ。ただいま」と、僕は荷物を置いた。  落ち着いた格好に着替えて台所の椅子に座った。  キッチンやリビングではない。台所である。僕の実家はそんな洒落た家でなければ、この町自体がそんな洒落た町じゃない。     
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