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 今のところ真理愛の目に映るのは、前後左右、どこを見ても「見たことのない風景」だった。後方は、今ジープが走ってきたのだろう砂利道が続いており。左右には、むき出しの山肌が見えていた。ジープが停まっているのは、山肌に挟まれた、広めの草地のような場所だ。  そして、これから真理愛が連れていかれると思われる前方には、こちらも急な斜面が立ちふさがっており、ジープの斜め前に、洞窟のような入り口があった。あの洞窟が、このゲリラたちの「アジト」なのかな……。人の出入りがない時には、草や枝か何かであの入り口を塞いでいるのかもしれない。そうすると、ここに「入り口」があるとは、ぱっと見はわからないように思えた。  いずれにせよ、今の真理愛には、ゲリラの言いなりになるしかなかった。ジープに乗せられた時には、目的地に着くまで数を数えようとか、角を何回曲がったか覚えておこうとかも考えたが、映画やドラマのように、上手くいくわけではないことを実感させられただけだった。これから自分は、どうなるのか。あの洞窟の中には、何が待っているのか? ゲリラたちが銃口を自分に向けていないことから、今すぐ自分を殺そうとしているわけではないと考える、そう思い込むのが、真理愛にとって唯一の救いになっていた。  自分を「お嬢さん」と呼んだゲリラの後について、1メートルほどの間隔を開けて、真理愛は歩き始めた。真理愛の後ろからは、もう少し間隔を開けて、もうひとりのゲリラが付いてきている。 「ここから少し足元が暗くなるから、気をつけな」  前を歩くゲリラが、振り返って真理愛にそう言った。すなわち、これから洞窟に入るということだった。真理愛は改めて緊張し、「こくり」と小さく頷いた。
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