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「市場」の人々は、年齢も性別も様々で、中には老人や小さな子供までいた。しかし着ている服は、誰もがあり合わせのもので作ったような統一感のないもので、決して「恵まれた生活」をしているようには思えなかった。恐らく、真理愛がいつもマンションの窓から見下ろしている、「スラム街」に住んでいるような人たちなのだろうと、真理愛は思っていた。
しかし、その人々の様子は、真理愛が想像していたものとは少し違っていた。真理愛は勝手に、恵まれない生活をしている人たちが、鬱屈した空気の中で過ごしている……と考えていたのだが、この「市場」には、何か生き生きとした活気があった。みな、今の生活を惨めなものだとは思っていないような、そんな雰囲気が感じられた。
そんな人々の集う「市場」の中で、学校の制服を着て歩いている真理愛の姿は、いかにも違和感があり、「浮いている」ように思えた。それで市場の人々は、珍しそうに自分を見ているのだろう。何かここにいると、自分の方が「のけもの」のような、そんな気さえするほどだった。
そんなことを思いながら歩いていると、進行方向のやや右側に、自分と同じくらいの年頃と思われる、少女が立っていた。その少女は色白で、他の市場の住人とは違い、しつらえたような白いワンピースを着ていた。つやつやとした黒髪は、小さく膨らんだ胸元まで伸びるほど長く、両目はくるんとして愛らしさを漂わせ、なんだかお人形さんのようだわと真理愛には思えた。
少女は真理愛が目の前にくると、にっこり微笑み、「ぺこり」と可愛らしいお辞儀をした。真理愛も思わず、お辞儀を返してしまった。何か、その少女のいる空間だけ、空気感が違っているようにも感じられた。
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