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「……そりゃあ、おめぇ、その商店にはアガリを何割かを入れる約束だったんだろう?同じように、ここら一帯をシメているウチの組にもアガリを入れるってのが道理ってもんだ。そうしたら、こっちもケースバイケースで、おめぇが何かトラブったら護ってやるよ。それがこの世界(ヤクザ)の常識ってもんだ」 「知るか、そんなの。ボコボコに殴りやがって、おかげでこっちは満身創痍だ。警察に訴えられたくなかったら、慰謝料くらい払いやがれ! 」  聖の言い草に、その場に控えていた男達がカッと反応した。 「何、この……! 」  だが、 「ハハハハハ! 小僧、おめぇ面白れぇヤツだなぁ」  正弘の愉快そうな笑い声に、男達は出ばなをくじかれる。 「普通、こんなおっかない男共に囲まれたら、震えあがって泣いちまうもんだぜ? おめぇは怖くねぇのかい? 」 「――ああ、怖くはないね」 「ほぉ? 」 「どうせ、どんなに悪くったって、たかが死ぬだけだろう? そんなの今更怖くねぇよ」  故郷には、いい思い出など一つもない。  聖は、この世に生を受けてから、誰にも愛される事なく(かえり)みられる事もなく、苦難と苦痛の中で育った。  いや、唯一『愛』と呼べる出来事は、本当に、たったの一度だけ――――しかしそれもまた、見失ってしまった。  施設を飛び出したのは十三の冬だ。  それから彷徨い続け、十五の春、この東京へやって来た。 「たかが死ぬだけ、だと? 小僧の分際で、世の中全てを知っているような口を利くじゃあねぇか」 「だけど、そうだろうが? どいつもこいつも見ないふりして誤魔化してやがるが、どんな金持ちだろうと偉いヤツだろうと結局は死ぬんだ。だったら、今死ぬのも、ジジィになってから死ぬのも同じだろうが」
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