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聖と女教師のウワサはあっという間に町中に広まり、聖は外出することも学校へ行くことも禁じられ、施設へ閉じ込められた。
その後、施設の職員達によって乱暴されそうになり、着の身着のまま、聖はその日に施設を脱走するしか道がなかった。
そこから、もうその場所には戻っていない。
施設を飛び出したのは、十三になったばかりの冬だった。
それからずっと、盛岡、仙台と彷徨い、十五の歳になって東京へやってきた。
帰る故郷も家もない。家族もいない。友人もいない。
聖には、何もない。
しかしこのまま路傍の石として朽ちていく前に、何かしら爪跡を残してから死にたい。
その一念で、聖はたった一人でここまで来た。
だが、今の自分は――……。
「なんでぃ? まぁた、やり合ったのかよ? 」
その声に振り向くと、大島を粋に着こなした五十絡みの壮年の男が立っていた。
一見すると、とても極道に見えない。
ごく普通の、小柄な、温和な男に見える。
だが、この男こそが、この天黄組の組長である天黄正弘なのだった。
◇
「威勢のいいのは結構だが、もうちっと上手く振る舞わねぇと、おめぇ早死にするぜ? 」
背中を流していたら、そう忠告された。
「……うるせぇよ。オレは昔からこうなんだ。今更変えられっこない」
憮然と言い返し、聖は桶に湯を汲むと、その背中へザバッと掛けた。
そしてまた、桶に湯を汲もうと、蛇口をキュッとひねる。
正弘の背中には、まだ流し切れないままの泡がくっついていた。
口は悪いが、意外と真面目な性格の聖は、与えられた仕事を黙々とこなす。
聖の今の仕事は、天黄正弘の入浴に付き合い、その背中を洗い流す事だった。
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