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「おめぇに、100万やるよ。それを元手に一ヵ月後、どうなってんのかな」
「……つまり、増えてんのか減ってんのか、それを見極めたいっていうのか? 」
聖の探るような問い掛けに、正弘はニヤリと笑って答える。
「頭でもいい、腕っぷしでもいい。それこそ、色でも構わねぇ。とにかく増やしていたら、ちぃとおめぇの使い道を考えてやるよ。確かに、湯坊主のままじゃあ、そういつまでもここに置いちゃあおけねぇからな」
「……」
「このままじゃあ、おめぇ、近い内に気の荒い連中に取っ捕まって穴だらけにされて、どっちにしろ死んじまうぜ」
そう言うと、正弘は手ぬぐい片手に風呂場を出て行った。
一人残された聖は、湯船に浸かりながら思案する。
――――ここは、極道の本拠地だ。
いずれにせよ、正弘に気に入られれば、そのまま極道の仲間入りするのは間違いない。
嫌なら、出て行けばいいだけの話だ。
正弘は、べつに聖に屋敷から出るなと命令もしていないし、監視も付けていない。
聖が出て行こうと思ったら、いつでもこんな所は出て行ける。
穴だらけだか何だか知らないが、そうなる前に、さっさと連中に後ろ足で砂をかけて逃げてしまえばいいのだ。
しかし、聖は悩みながらも思い止まって、こうしてここに残っている。
(東京、か……)
半年前、聖は悲壮な覚悟をもって上京した。
そして、上野に降り立ち、山手線に乗り換えて東京駅へ向かった。
東京だから、東京駅。
そんな発想自体が、本当に田舎者だったと思う。
だが、ビルだらけのそこで何をやれるはずもなく、むしろ猥雑な印象だった上野の方が住みやすい気がして、再び同じ場所へ戻っていた。
そこで、真っ黒でクズ同然の銀細工を、それこそタダみたいな値段で手に入れ、酢でピカピカに磨き上げて売ろうとした。
その矢先に、ショ場代だ何だと因縁を付けられ、今に至る。
あの銀細工を、もしも真っ当に売っていたとしたら、どうなっていただろう?
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