222人が本棚に入れています
本棚に追加
4
「おい、あのウワサ、聞いたか? 」
兄貴分の男達が、何やらヒソヒソと話している。
気になって、近藤碇は事務所の掃除をする手は止めずに、聞き耳だけを立てた。
その様子に気付かず、男達はタバコをふかしながら、噂話に興じる。
「あん? ウワサって何だよ」
「親分の所に、半年くらい前にどえらい別嬪が転がり込んだんだとよ。んで、すっかり親分は骨抜きになっちまって、そいつを片時も離さないんだと」
「へぇ!? マジかい? でもまぁ、親分も姐さんが亡くなってからやもめが長いんだし、結構な事じゃないか」
「いやいや、それがまだ、十五歳の美少年なんだとよ」
「うへぇ! それこそビックリだ!! 親分に、そんな趣味があったのかよ? 」
事務所で油を売っていた連中は、ちょうど退屈していたところだ。
そこに、こんな話が舞い込んだのだから、その場にいたほとんどの連中は、その噂話に飛びついた。
ネタを持ち込んだ男は、周りに注目されるのが心地いいのか、何故か自慢げに胸を張って続ける。
「それでな、上野の本家では、そいつをどこに置くかで揉めているらしいぜ」
「は? 組長の愛人だったら、そりゃあどこか適当に店でも持たせて――」
「いや、だから。相手は十五の男だって言っただろうが」
「もしかして養子にすんのか? じゃあ、親分は行く行くはそいつを跡目にする気なのかよ」
「それじゃあ、現在跡目と見做されている、竜真の兄貴の立場がねぇじゃねーか!? 」
それからも、面白半分真剣半分、男達は喧々諤々と言い合う。
その様子を、碇はタバコの灰皿を換える振りをしながら、注意深く見守る。
(十五の、男だって? )
碇と、同い年ではないか。
それなのに、その『どえらい別嬪』というヤツは、ちゃっかりと本家に居座って、親分に取り入っているのか。
最初のコメントを投稿しよう!