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「おい、あのウワサ、聞いたか? 」  兄貴分の男達が、何やらヒソヒソと話している。  気になって、近藤(こんどう)(いかり)は事務所の掃除をする手は止めずに、聞き耳だけを立てた。  その様子に気付かず、男達はタバコをふかしながら、噂話に興じる。 「あん? ウワサって何だよ」 「親分の所に、半年くらい前にどえらい別嬪が転がり込んだんだとよ。んで、すっかり親分は骨抜きになっちまって、そいつを片時も離さないんだと」 「へぇ!? マジかい? でもまぁ、親分も(あね)さんが亡くなってからやもめが長いんだし、結構な事じゃないか」 「いやいや、それがまだ、十五歳の美少年なんだとよ」 「うへぇ! それこそビックリだ!! 親分に、そんな趣味があったのかよ? 」  事務所で油を売っていた連中は、ちょうど退屈していたところだ。  そこに、こんな話が舞い込んだのだから、その場にいたほとんどの連中は、その噂話に飛びついた。  ネタを持ち込んだ男は、周りに注目されるのが心地いいのか、何故か自慢げに胸を張って続ける。 「それでな、上野の本家では、そいつをどこに置くかで揉めているらしいぜ」 「は? 組長の愛人(イロ)だったら、そりゃあどこか適当に店でも持たせて――」 「いや、だから。相手は十五の男だって言っただろうが」 「もしかして養子にすんのか? じゃあ、親分は行く行くはそいつを跡目にする気なのかよ」 「それじゃあ、現在跡目と見做されている、竜真の兄貴の立場がねぇじゃねーか!? 」  それからも、面白半分真剣半分、男達は喧々諤々と言い合う。  その様子を、碇はタバコの灰皿を換える振りをしながら、注意深く見守る。 (十五の、男だって? )  碇と、同い年ではないか。  それなのに、その『どえらい別嬪』というヤツは、ちゃっかりと本家に居座って、親分に取り入っているのか。
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