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正弘は、天黄正弘となり、天黄組の跡目として、正式に組長へと上り詰めたのだ。
そして、昭和63年、正弘は五十歳となっていた。
◇
その日はたまたま、幹部を引き連れて複数あるシマの見回りをしていた。
そして、フラッと足を向けた蕎麦屋で、昼飯を食おうかと話していたところ、何やら騒ぎを聞きつけた。
どうも、組の手下の若い衆が、路上で派手に立ち回りを始めたようだ。
(おいおい、マッポが来ちまうだろうが)
正弘はチッと舌打ちをして、殺気立っていた手下たちを一喝した。
「うるせぇぞ! 何を騒いでやがんでぇ! 」
不意に現れた組の頭に、若い衆は慌てて直立不動になる。
「すいません! こいつが――」
言い掛けたパンチパーマの脛を、鋭い蹴りが襲う。
「っ!! 」
飛び上がるほどの痛みに、悶絶するパンチパーマを払いのけ、蹴りを繰り出した影は、一瞬の隙をついて包囲網を突破した。
しかし、背後は壁が続いて逃げられない。
行く先は、消去法で、正弘の右側側道となる。
信じられないほどの俊敏さで、その影は、正弘の脇をすり抜けた。
だが、正弘も極道として場数を数多く踏んでいる。
そう簡単に、獲物を逃しはしない。
その場にいた誰もが反応できなかったが、正弘だけは、瞬間に動いた。
すり抜けようとした影の前に、スッと足を出す。
「うっわ! 」
影は、足を引っ掛けられ、派手に転倒した。
一瞬遅れで、周りの手下たちが影を取り押さえる。
「大人しくしろ! この――いてぇ! 」
「何やってんだ!! ちゃんと掴めって! うわ!? 噛むな! 」
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