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正弘が、制止の声を上げようとしたが――
「ギャア! 」
手下の一人が悲鳴を上げ、飛び退く。
その腕には、刃物ですっぱりと切られた傷が刻まれていた。
「き、気を付けろ! こいつ、武器を持ってるぞ! 」
その声に、怯む手下たち。
この隙をついて、またしても少年は脱出を試みた。
だが、たった今、激しい暴行を受けた身だ。
最初のように、俊敏に動くことは叶わない。
ましてや、数多くの修羅場を踏んだ、極道の頭である正弘の隙をついて逃げ出す事など、不可能であった。
「うっ……」
「――まったく、とんだ子虎だぁな」
そう呟くと同時に、正弘はその腕の中に、少年をしっかりと捕らえていた。
一瞬遅れで、周りの幹部や手下たちが、親分を取り囲むように集まる。
「親分、大丈夫ですか!? このガキ――」
しかし、正弘の怒りの矛先は、捕らえた少年にではなく手下たちへ向かった。
「黙れぃ! この三下が!! 揃いも揃って、大の男共が何やってんでい! 」
「へ、へい……」
「こんなガキ相手に情けねぇ! てめぇら、破門だ!!」
「そ、そんな――」
戸惑う手下たちの始末を、幹部に任せ、正弘は腕の中の少年に目を落とした。
(味方のいない中、たった一人で、孤軍奮闘か――)
まるで、昔の自分を見ているようだった。
(……ま、オレのツラはこんなに良くなかったけどよ)
「おい、車を回せ」
「はい」
正弘の指示に、素早く車が用意される。
小さく笑いながら、糸が切れように意識を失っている少年を抱えると、正弘は車へ乗り込んだ。
――――少年の体は、驚くほど軽かった。
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