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EP10 Battle against adversity ④
シミュレーターが納品されてから早三日、恵美は整備士長の聖から試合に向けて機体調整の報告を受けている。隣ではシミュレーターのカプセルが静かに唸り声を上げていた。
「リリエンタールとレオニダスは明後日帰ってくるわ」
「そうか、何か特別変わったところはあるかい?」
「別にないわ、OSを最新のに変えたのと摩耗してたパーツを入れ替えたくらいかしら」
「それだけなら慣らし運転だけで充分そうだ」
「それとTJの追加武装ですが、これは少し難航してるらしく来週になるかと」
「じゃあせめてシミュレーション用のスペックデータだけでも貰えないかね?」
「聞いてみます」
聖は整備棟の奥へと戻っていった。彼女にはまだ整備パーツの発注に整備士のシフト調整もしなければならないので休まる暇が無い。
特に今は師匠も走る十二月にさしかかろうとしているので、年末年始に向けて業者対応が増えて行く事だろう。
「整備士の仕事を楽にしないといけないのに、よりにもよってこんな時期に試合とはね」
「確かに、嫌な時期ですね」
厚がきた。そういえば次のシミュレーター訓練は彼が参加する予定だった。
「九重曰く、相手のオーナーは相当性格が悪いらしいじゃないか」
「まさか、普通に性格悪いですよ」
「中々言うじゃない」
シミュレーターの管理画面に二人して目を向ける。今シミュレーターにはフロントメンバー五人が入り込んで練習している、どうやら今は防衛にはいったらしい。
「ちょっとした疑問なんだけどさ、そんなに性格悪いならなんで試合なんかするんだい? ハミルトンが欲しいなら力づくで手に入れればいいじゃないか、実際その力はあるのだろ?」
「ええ、試合させるのもスポンサーを人質にして無理矢理承諾させたわけですので。確かに妙ですね」
「あたしは九重のお兄さんの事何も知らないけどさ、何か目的があるんじゃないか?」
「そうですね、流石に違法行為はしませんから酷い事ではないと思いたいですが」
答えは直ぐに知ることとなる。その日の十六時頃、件の九重弘樹が記者会見を始めたのだ。
何でも新しい操縦システムの発表だとかで。
対戦チームのオーナーが記者会見するわけだから、流石に練習を中断して全員で見る事にした。それぞれ自分の端末で記者会見を観ている。
『この度、我が社が開発した新しい操縦システム、これは実の所全く新しいというわけではありません。似たような物なら既にたくさんあります』
『では何故新しい操縦システムなのですか?』
『それは、従来の操縦システムより遥かに簡単だからです。これをご覧下さい』
弘樹の合図と共に、舞台袖からコンパニオンの女性が小さな箱を持って現れ、箱を弘樹の前に置く、それから箱の蓋を開けて中身が見えるようにしてから舞台袖へ引っ込んだ。
箱から現れたのはゲームコントローラーだった、何の変哲もないただのゲームコントローラー。
『これが新しい操縦システムです』
ザワザワと会見場が騒がしくなってきた。それもそうだろう、新しい操縦システムということで来てみれば、ただのゲームコントローラーだという、ふざけてるとしか思えないのが普通だ。
『最近のゲームは凄い、少ないボタン操作とレバー操作で複雑な動きを再現してみせている。我々はこれを操縦に活かせないかと思い研究し、そして完成させました。
ボタン一つ一つ、もしくはコマンド入力で特定の動きができるようにし、複雑な操作を必要としません。つまり体感的に操作できるわけです』
「これ、ある意味合理的だよ。僕達みたいな子はゲームとか結構やってるから覚えるのも早いと思うんだ」
宇佐美が冷静に分析する。確かにその通りなのだ。少し前には潜水艦の操縦をゲームコントローラーに変えたら操作ミスが減ったというのもあって、ゲームコントローラーというものは意外と便利なものなのだ。
『皆さんが戸惑うのも仕方ありません。ではどうでしょうか? 実は近いうちにこのシステムを導入した私のチームの二軍が練習試合をするんです、そこで判断してみては?』
『どこのチームと試合するんですか?』
『美浜インビクタスアムト、今年の四月に祖父が発表したACSを搭載した機体が所属するチームです。まだ出来たばかりのチームなので情報はありませんけどね』
『つまり新しいシステム同士の対決というわけですね』
会見場はまた騒がしくなってきた、心做しか焚かれるフラッシュも数が増えてきているように思える。眩しくないのだろうか。
「これが狙いだったわけね」
祭が忌々しげに弘樹を観てボヤいた。
「ハミルトンが欲しいなんてのは二の次、本当の目的は自社で開発した操縦システムのデモンストレーションよ」
「つまり、ワイらは当て馬にされたわけやな」
「そうよ、だから絶対ぶっ潰すわよ!」
かってないほどの熱気、それ程までに祭は腹がたっていたのだ。怒りが彼女のモチベとなっている。
「ごめんなさい訂正するわ。絶対ぶっ殺す!」
高いのは殺意だった。
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