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このラガーマシンは素人目に見ても走るための機体だとハッキリわかる。だのにこんな走るのとは無縁の場所で佇んでいるという事は何らかの理由で走れなくなったのだろう。
「お前も僕と同じなのかな。僕も昔はよく走ってたんだ」
愚痴、何故突然話そうと思ったのか、このラガーマシンに共感したからなのか、宇佐美本人にもそれはわからなかった。
ただ、聞いて欲しいと思ったのだ。
ラガーマシンに。
「マラソンとか駆けっこが好きでね、こう見えて一度も負けた事無かったんだよ。
でも中1の時に……よく晴れた気持ちのいい空だったな、河原を走っていた時にね、飲酒運転の車が突然道路を外れて土手を転がってきて、それに巻き込まれて川に落ちたんだ。そしてこのザマさ」
不随となった右足をポンポンと叩く。
辛うじて自立はできるのだが、上手く膝を曲げられない。
しかしこれでもリハビリのおかげでマシになった方で、事故当初は感覚すらなかった。
「……何言ってんだろうなぁ」
フッと自嘲気味に微笑んで杖を扉の方へと向ける。流石にそろそろ出ないと。
だが、少し遅すぎたようだ。
「ハミルトンに興味があるのかの?」
スタッフの人に見つかってしまった。
濃い茶色のスーツに身を包んだ年配の男性。真っ白な髭と柔らかい瞳が何処か安心感を与える。
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