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客間に入る直前に台所が見えた。トントンと包丁がまな板をリズミカルに叩く音が聞こえるので誰かが調理をしているのだろう。
とりあえず挨拶をと思い、包丁の音が途切れたタイミングで壁をコンコンと叩いてから半身だけ覗かせる。
調理をしていたのは祭だった。
デニムパンツにポロシャツ、エプロンを掛けて袖は捲っている、髪は作業しやすいよう後ろで束ねてポニーテールにしている。
「いらっしゃい、宇佐美君。もうすぐできるから待ってて」
「はい……えっと、お招きいただきありがとうございます」
「フフーン、良きにはからえー。私の超絶料理テクを楽しみにしてなさい」
「じゃっ客間はこっちっす」
クイゾウに案内されて客間に通される。典型的な和室だった。床の間があり、床脇があり、書院がある。
真ん中に置いてある座卓には既に皿に盛られた料理が乗っている。肉じゃが、唐揚げ、サラダ、おひたし、グラタン、漬物、お吸い物、意外な事にどれも家庭料理であった。
「すごい、これ全部九重さんが?」
「そっすよ、お嬢料理だけは得意っすから」
「だけって何よだけって、失礼ね」
祭が刺身を乗せたお盆を持って現れた。それを3箇所に置いてから盆を脇に置いて宇佐美の真向かいに座る。
(3つ?)
「そいやお嬢、何で皿が3つあるんすか?」
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