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「あっ、いたいた。健二に武尊やーい」
張り詰めた空気はどこへやら、呑気な声が聞こえると霧散して消えた。
健二が振り返ると教室の入口に件の宇佐美がいた。
左手に杖を持って、右手を小さく振っている。
「おや、噂をすれば例の障害者じゃないですか……どうも」
新しい玩具を見つけたと言わんばかりに漣理が嫌みったらしい眼差しでもって宇佐美の元へと近寄る。
「おい!」
すかさず健二と武尊が二人の間に入る。
そんな三人の荒ぶる空気に気づいていないのか、宇佐美は変わらずのほほんと話を続ける
「えっと、南條君だっけ? 確か実家はスポーツ用品の大きな会社だよね」
「ええそうですよ、下等市民といえど覚えていただき光栄です。
そうそうラフトボールを始めたとか? そんな足でできるんですかぁ?」
おそらくこれが言いたかったのだろう、現実を突きつけて相手の夢や希望をへし折る。嫌なやり口だ。
しかし宇佐美の答えは予想外なものだった。
「うん! 何とかなるみたいなんだ。気遣ってくれてありがとう」
「は? 気遣うわけないでしょう、ただあなたみたいなのがラガーマシンに乗ったところで、ペダリングできないから足でまといにしかならないだろうて」
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