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事件から2週間が過ぎた。
三月も末に入りすっかり辺りは春めいてきている。
真人と友里は別居を解消していたが、依然友里は寝室のベッドを使用しなかった。奈々と一階の和室に布団を敷いて寝る暮らしは変わっていない。
あれからというもの、友里は音に対して敏感になってしまい、ちょっとした音でも怯えるようになった。真人に対しては本人なりに普通に接しようと努力をしているのだが、時々他人のような態度を取る。奈々からもひと時も離れない。奈々がいないと真人とは口を利かなかった。
そんなある日、真人は友里の後ろ姿に話し掛けた。
「友里、話をしないか?」
キッチンで昼食の食器を洗っている。
「何を?」
振り向かず聞いた。
「何をって、これからのことさ」
「これから?」
食器を洗う手が止まった。
「ああ。ちょっとこっちに来てくれないか」
振り返って真人を一瞥する。
「すぐ出掛けなきゃなんだけど」
面倒くさいというような態度でパタパタとスリッパを鳴らしながら、ダイニングテーブルに座る真人の向かいに腰を掛けた。
「・・・・・・」
真人とは目を合わせない。
「興信所を閉めようと思う」
「そう・・・」
「そうって・・・。だから収入的には少なくなると思うけど、それを承知して欲しいんだ」
「いいんじゃない。もうあの人を思い出さないで済むからね」
「・・・・・・」
トゲのある言い方をする友里。しかしそれも当然だと真人は腹を立てることは無かった。美友と寝たのは本意ではなかったが、それを言い訳にもしなかった。事実は事実。しかし結局真人は最後には美友に心を奪われていた。そのことが真人にとっては重要だった。これを悟られまいとしている自分が、友里と生活をしていることに違和感を感じていた。
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