35人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの子のこと・・・狙ってたの俺だけじゃ無かったんだなぁ・・・」
静かになった体育館で呟いた彼の言葉は、志織には届いていなかった。
「やれやれ、七瀬さんも世話がかかるなぁ」
彼はため息を一つ溢すと、また黙々とアウトサイドシュートを打ち始めた。
「あのっ!」
「なぁっ!」
「・・・・・・・・・」
二人は同時に口を開いて、同時に口を閉じた。
「なんだ?お前から先にいいぞ?」
「・・・って言っても何から話していいのか・・・」
話したいことが多すぎてまとめることができず、志織は苦笑いを見せた。
「そうか。ならこっちから」
歩みを止めて、七瀬は彼女を見つめた。
「・・・もう、忘れたのか?」
「えっ?」
「あの日、ここでお前を泣かせていた男のことだ」
風が、志織の頬を撫でた。
─お前を泣かせる男などさっさと忘れてしまえばいい─
あの日の彼の言葉・・・。
あの日の景色が鮮明に思い出されていく。
「・・・今、忘れていたんだと思い出しました・・・」
志織は七瀬をまっすぐに見つめて、答えた。
「・・・そうか」
そんな彼女を見て、七瀬が笑う。
あの日と同じ笑顔に、志織は大事なことを思い出した。
「そうだ!!七瀬さん!!ジャージ返さなきゃ!私、あの後あのジャージを見て驚いたんです!!だって、自分の進学校なんだもん!!」
最初のコメントを投稿しよう!